本研究では、加工中の切削力を一定に保ちながら加工能率を最大にするという問題に対し、従来行われていた工作機械の適応制御がその応答性の点で本質的に問題点があることを指摘し、切削シミュレ-ションによる切削力変化の予測値に基づいた制御方法を提案した。さらに、この考え方に基づきマシニングセンタを用いた制御システムを構成し、有効性を切削実験により確認した。本研究の主な成果は以下の通りである。 1)工作物の3次元形状モデルにもとづく切削シミュレ-ションシステムを用い、加工中の切削ベクトルの予測が精度良く行えるようになった。 2)主軸回転数の変動により切削トルクの変動が感度良く観測でき、多刃工具の損傷検知に有効であることが明らかになった。 3)切削シミュレ-ションにより予測された切削トルクの変化パタ-ンから、切削トルクを一定に保つような送り速度パタ-ンを求め、それを目標値として、送り系の遅れを考慮した入力指令値を求める予見アルゴリズムを開発した。この際送り系の動特性は2次系で近似した。 4)マシニングセンタとパ-ソナル計算機を用いた制御システムを構成し、エンドミル加工に対し本制御方式を適用した。この結果、工作物の形状が急変する場合にも、切削トルクが設定値を一時的にも超えることなく安定した切削が可能なことが確認できた。 ところで、今回開発した目標送り速度パタ-ンから入力送り速度パタ-ンを求める予見アルゴリズムは、送り系の特性を2次振動系と仮定しているなど一般性に欠く点がある。今後、理論的に整理されたより一般性のある方法を検討する必要がある。また、実時間の制御プログラムも不完全な形でしか実現できなかった。切削力推定誤差補正のためのフィ-ドバックル-プの組込と異常監視機能との統合化が今後の課題である。
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