数値流体力学においては、物体形状に適合した一般曲線座標を用いるので交差微分のある楕円形方程式を解く必要がある。この方程式の差分解法は最終的に非対称の大型疎行列を係数行列とする連立一次方程式を解くことに帰着する。このような線形計算のベクトルプロセッサに適した効率的な反復解法として注目されているBCG法、CGS法の収束特性と、これらに各種の前処理を施した場合の収束特性の改善の効果を、ベンチマーク問題について調べた。なお前処理法については、従来から広く用いられている不完全LU分解法(ILU法)と本研究において新たに提案した交互方向法(ADP法)とについてその収束特性の改善の効果を比較した。その結果、前処理なしの基本反復法の特性としては、CGS法はBCG法に比べて収束過程における残差の振動が大きいという欠点はあるものの、収束に要する反復回数は約30%ほど少なく収束性がよいという知見を得た。前処理によっ収束に要する反復回数は、1/7〜1/(10)と大幅に減少することが確認されたがADP法とILU法とではその効果に顕著な差はないということが明らかになった。 今後の計画としては新たに行列分離型の多段階前処理法を提案し、その収束特性の改善の効果を調べるとともに本研究で開発した前処理付反復解法のアルゴリズムを高レイノルズ数の剥離流などの工学的に重要な問題に適用する。
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