本研究の目的は、一次元非線形差分方程式で記述される区間力学系におけるカオスを時系列とみなし、その諸統計量(不変密度、相関関数、パワ-スペクトル、エントロピ-など)を、時系列を直接計算することなく、区間力学系を規定する写像から安定に、且つ精度良く求める解析法を確立することにある。また、その解析法の応用を図るものである。この解析法は、確立保存の関係を表すFrobenius-Perron作用素を適当な関数空間上で、ガレルキン法により有限次元行列で近似することに基づく方法である。昨年度は、有界な不変密度を有する場合だけでなく、非有界な不変密度を有する場合にも、諸統計量を良い精度で求められるように、従来の我々の方法を拡張発展させた時系列解析法を提案した。 本年度は、この結果を用いて以下の研究を行い、また発表を行った。 1.種々の区間力学系のカオス(有界な不変密度を有する混合的カオスや非混合的カオス(周期的カオス)、及び非有界な不変密度を有する間欠性カオスやfully developed chaos等)に、上記提案の時系列解析法を適用し、区間力学系のカオスがどのような統計的性質特にパワ-スペクトルを有し得るかを調べた。また併せて、厳密解が分かっている場合の結果との比較、解軌道を直接計算する通常の時系列解析法による結果との比較を行い、本解析法の有効性を示した。 2.所定のパワ-スペクトルを有する区間力学系の構成問題については、逆問題として理論的に解決するのは非常に困難であるが、パラメ-タを種々変化させて試行錯誤的に最適解を得ようとする場合、本解析法は有用である。 3.以上の成果を、電子情報通信学会技術研究報告CAS89-114、NLP89-72に発表した。また、今までの一連の成果を電子情報通信学会英論文誌のカオス現象小特集号(6月号)に発表予定である。
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