一般に、年少者が新しい文字を学ぶときには手本を見て書く練習をする。また人が文字あるいは図形を手で描く場合に、視覚によるフィ-ドバックを無意識に利用している。従って、このフィ-ドバックがない場合には、描こうとする文字や図形の位置およびその形がかなり悪くなることは福笑いの例からも分かる。盲人が文字や図形を手で描く場合も全く同様であり、たとえ盲人が文字を知っていても正しい形で書くべき場所に文字を筆記していくことはかなり困難と思われる。 そこで、聴覚における音像定位を利用した、音響フィ-ドバックによる文字および図形の筆記を支援する装置を構築して、数字、平仮名、漢字などさまざまな文字や図形について、筆記の可能性を検討してきた。本方式によれば文字を知らない盲人に文字の形および筆順を教えることも可能である。筆記した文字の評価は始点、交点、ストロ-クなどパタ-ン認識の手法を考慮して検討し、市販の手書き文字認識装置を用いた評価も合わせて行った。前年度までの検討では、小さいマスへの筆記が難しいこと、筆記開始点の探索に時間がかかることなどの欠点があった。 本年度は音響スクリ-ンの分解能の向上を主な目標に、ワクの効果的な音響表示法の検討などシステムの改善を行った。音響スクリ-ンの左右および上下には強度差および信号波形の要素も導入して、点音像の数を16×16から100×100へ増加して、筆記を用意に行えるようにした。更に音響スクリ-ンの外では合成音声による教示を行い筆記を補助した。その結果、本方式による音響フィ-ドバックの有効性を確認し、コンパクトなシステム構築の可能性を見出した。
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