大空間を薄膜を使用して架構する膜構造では、膜面全域にわたってできるだけ一様な応力が働くように計画することが設計に際しての基本的な考え方になる。与えられた境界条件に対して、すべての方向の膜張力が等しくなるような等張力曲面は、与えられた境界に張る曲面の中で最小の表面積を持つ曲面となることから極小曲面と呼ばれ、膜構造を扱う場合の原型設計曲面となる。この曲面を実験的に得る方法として、石鹸膜を用いた形状決定法がよく用いられる。この方法は極めて簡便で有用であるが、直接触れることのできない石鹸膜の形状を正確に捉えることは不可能で、写真撮影等の補助的な手法により、形状の概要を観察する程度にとどまっている。本研究は与えられた境界条件下での極小曲面を常に実現することが可能な、石鹸膜により形成される曲面の形状を、回折格子を利用したレーザー照射用光学系と画像処理システムを用いて定量的に測定する手法をあらたに開発し、等張力状態の成立曲面と面内断面力などの力学的諸量について検討を加えることを目的とするもので、今後の膜構造設計に対して有用な形状決定手段を提供しようとするものである。具体的な研究経過と得られた成果は次のようである。(1)ヘリウム・カドミウム(He-Cd)レーザー管を用いて格子照射光学系を設計製作し、所定のグリッド輝点群が目的の距離(50cm〜100cm)に発生することを確認した。(2)速乾性の有機剤による曲面模型に蛍光剤を塗布し、これにHe-Cdレーザーを照射して得られるビデオ画像から画像処理して得られる空間点の三次元データにより、曲面の形状を把握することができることを確認した。(3)有限要素法による面積汎関数を用いた三次元極小曲面解析プログラムを開発し、任意の境界条件での解析が円滑に遂行できることを確認した。今後は実際の石鹸膜にこの光学系を用い、理論と測定値との対応を検討する予定である。
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