地震工学の立場から「地殻・上部マントル中における波動減衰特性」について研究する目的を大別すれば、(1)地震動強さについての距離減衰式を求めること、(2)地殻・上部マントルの構造に関する地域特性と関連づけて地殻・上部マントル中における距離減衰の地域特性を探ること、の2点となる。そこで当研究課題の今年度行った研究は、上記(1)に主眼をおき、これに基づいて(2)について多少の模索を行ったものである。 本研究に用いたデータは、1979年6月より南関東(東松山・小川・銚子・館山・大洗)及び伊豆半島(修善寺)にて継続実施している総計66成分の広域アレー観測網による地震動記録である。今年度は、これらの記録のうち、1979年6月〜1984年6月迄の5年間に記録された合計108地震による1151成分の水平動加速度記録である。これらのデータを用いて武村(1987)の提案した距離減衰式(スペクトルによる)の形式を採用して回帰式を作成した。この場合のパラメータの一つである地震マグニチュードについては、この回帰分析が同一地震の際に広域多点で同時に観測された記録を用いたものであるために、Mを除去して距離減衰項を求めることができ、結果的にも安定した妥当な減衰係数を得ることが出来た。 次に上記回帰式を用いて(2)距離減衰の地域特性を探ってみた。この様な考察を行うためには、震源データの3次元的分布が多様でかつそれぞれの震源ゾーン毎のデータ数が相応の数だけそなわっていることが必要であり、この点で未だデータの蓄積が不充分であるといわざるを得ない。しかし、現時点での探りからするならば、回帰式から計算されるスペクトル値に対する観測記録のスペクトル値の比は、各観測点毎に震源ゾーンによる差異に定性的なものがうかがわれ、地殻・上部マントル中における波動減衰特性の地域特性のあることが示唆される結果を得た。
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