本研究は認知力の劣る精神薄弱者と痴呆性老人が目的地を探索し、間違わずに到達できるようにするには、どのような建築的配慮をすればよいかを、調査・実験によって検討しようとするものであり、とくに探索歩行行動の基本特性の把握に主眼が置かれている。調査・実験には二種の方法を用いており、一つは空間構成の異なる環境内での探索歩行行動観察調査であり、他は空間構成のシミュレーション図像を提示し、アイマークレコーダを用いて空間要素情報(ランドマークや案内標識など)への注視傾向を分析している。 昭和63年度の探索歩行行動観察調査では、精神薄弱者施設1施設、痴呆性老人施設3施設における入所者計80名を被験者とし、自室・便所・浴室・食堂などを探索させている。軽度と中度の障害者ではほぼ探索が可能であるが、重度障害者では約3割が出発点で出発ができず、さらに途中の経路分岐点で約4割は間違った方向に進み、結局は2〜3割しか到達できなかった。それも単調で同質のものが並ぶ居室群のなかから自室を探索することがもっとも困難であった。また同時に施行したシミュレーション実験では、屈折性、対比性、連続性、移動性、方向性、点滅性、信号性などを表象する図形や模擬交差点の図像を提示し、健常者を対象群として比較・分析している。これも重度障害者の場合には図形特質への注視が有意に減少している。しかし時間的には遅延するが移動物体への追随と点滅性には注視がみられ、これらを利用した誘導標識などが有効ではないかと考えられる。なお、精神薄弱者の注視は散漫化し、痴呆性老人の注視は視野中央部に固定化する傾向がみられている。 これらの詳細については裏面に掲載している研究発表を参照して下さい。
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