本研究は認知力の劣る精神薄弱者と痴呆性老人が目的地を探索し、間違わずに到達できるようにするには、どのような建築的配慮をすればよいかを実験によって検討するものである。実験には2種の方法を用いており、一つは空間構成の異なる環境内での探索歩行観察であり、他は空間構成のシミュレ-ション図像を提示し、アイマ-クレコ-ダを用いて空間要素情報(分岐点や目的地の形状など)への注視傾向を分析しようとするものである。 当該年度の探索歩行実験では、痴呆性老人施設2施設で被験者延べ147名を対象に経路が水平移動のみの場合と階段やエレベ-タ利用による階異同が含まれる場合のそれぞれについて分岐点数が0〜7である条件のもとで目的地探索行動をさせている。水平移動のみの場合では障害程度が軽度と中度では9割が自力探索できるが、重度となると2割しか自力探索ができない。とくに分岐点数が4以上となると重度の全員が不可能であり、軽・中度でも4割に激減している。さらに階移動を伴う場合では軽・中度でも4割に激減している。さらに階移動を伴う場合では下・中度の2割が階段を自力利用できるだけで、エレベ-タ-利用は全員が不可能であった。 またシュミレ-ション実験では、精神薄弱者施設と痴呆性老人施設の各1施設で、被験者10名を対象に、探索経路の分岐点状況を想定し、直進性、慣性性、屈折性、無指向性、放射性、点滅性を表象する図形を提示し、健常者を比較対照群として分析している。これについても重度障害者の場合には図形特質への注視が有意に減少している。とくに放射性と無指向性を表象する図形に対しては追随注視がほとんどできない。 これらのことから、障害者では経路中に分岐点があっても、これを無視して直進し、あるいは目的地についても広がったところにあるよりは狭まったところにある方が到達しやすいのではないかと類推される。
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