本研究は認知力に障害のある精神薄弱者と痴呆性老人が目的地を探索し、間違わずに到達出来るようにするには、どのような建築的配慮をすればよいかを、実験によって検討しようとするものである。実験には2種類の方法を用いており、一つは空間構成の異なる環境内での歩行行動観察であり、他は空間構成にかかわるシミュレ-ション図像等を提示して、アイマ-ク・レコ-ダを用いて種々の視覚情報(ランドマ-クや案内標識など)への注視傾向を分析しようとするものである。歩行行動観察では直線歩行、一回折れ歩行、階段昇降歩行、認識地図による空間把握状況などの基本的歩行行動を検討したのち、自室・便所・溶室・食堂などを探索歩行してもらうとともに階段やエレベ-タ-利用をともなう場合や分岐点の形態や数が異なる場合の探索状況を検討している。中度の障害者ではほぼ探索できるが、重度障害者では出発点で出発することさえもできない例があり、とくに分岐点での経路選択に困難がみられる。エレベ-タ-は操作困難であり、全員が単独利用が不能である。アイマ-ク法による視覚情報探索では、どのような図形が探索されやすいかを検討したのちに、探索経路の分岐点状況を想定した、直進性、貫性性、屈折性、無指向性、放射性、点動性を表象する図形を考案して実験している。さらにこれらの成果を踏まえてアイマ-クカメラを装着したままバリアのある経路を探索歩行してもらう実験も実施している。点滅したり規則的に移動したりする視覚情報は注視されやすく、静止したままや複雑な視覚情報は無視されやすい。精神薄弱者の注視は散漫に広がるが、痴呆性老人の注視は視野中央部に集中固定化する傾向がみられる。まとめとして施設内歩行空間の形成状況を15施設について調査したが、障害が重くなればなるほど、歩行空間に制限が加えられている実態が明らかとなっている。
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