本研究は、明治から昭和戦前にかけての建築設計図面の内容を検討することにより、日本近代建築の詳細な内容を明らかにしようとするものである。最終年度にあたる本年度の調査・研究は、全国に現存する建築設計図面史料の所在調査の継続と、その史料の基づいた日本近代建築の設計手法の近代化過程の解明にあった。 これまで、当研究室では、戦前期最大の民間設計事務所であった曽禰・中條建築事務所の図面遺産を図面筒にして200余本、さらに、辰野金吾・塚本靖等多くの建築家所蔵図面史料の収集・保管にあたり、これによって得られた知見は大なるものがある。 特に、本年度の収穫として、公共機関に所蔵されている史料のうち、国立公文書館で得られた該当史料は明治期の建築を研究していく上で甚だ貴重なものといえる。また、全国的な建築関係者遺族調査によっても、横河工務所や村野・森建築事務所といった優れた建築事務所の膨大な図面史料の発掘も大きな収穫であった。 さて、日本の建築が、明治期を境にして急速な近代化を遂げた背景には、西洋から学んだ建築設計法の広い伝播があった。それは、江戸期までの伝統的な符牒を用いた設計の方法と根本的に異なり、建築の内容を細部まで規定しながら、縮尺を設け、平面・立面・断面・構造・設備等に亘る一連の図面を描き、これに工事仕様書を加え、実際の現場監理を行なった。そのため、明治以降の建築設計図面史料(意匠設計図・施工図・仕様書他)は、実際に建った建築の内容を忠実に伝える史料とも言える。これまでの調査・研究により、具体的にそれらを確認できたのは、最大の成果であった。また併せて、本研究の大きな目的であった全国図面所蔵リストの作成については、当初の目的を完遂することができた。このことは、建築史研究のみならず、建築・都市に関わる研究の進展において甚だ貴重な資料といえよう。 なお、設計手法の近代化過程については、具体的には曾禰中條建築事務所の図面の分析を行ったが(研究成果報告書参照)、図面に見られる描法の変遷など極めて難しい問題であることが理解された。今後の大きな課題として、更なる研究を進めていきたい。
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