東日本における伝統的都市居住の実態は、会津若松を中心とした昨年度までの調査研究で大方把握できたので若干の補足調査にとどめ、本年度は西日本、とりわけ九州における伝統的都市居住の実態把握を目的として研究を実施し、併せて次年度に向けて若干の予備調査を実施した。 本年度の研究は、中世以来都市居住の伝統を有する都市と、近世に至って都市居住の伝統を形成した都市とを比較する方法を採用し、主に西日本の伝統的都市居住の実態を統括的に把握せんと試みた。前者に属する都市として、考古学的調査の進展に伴って研究資料が整いつつある博多・福岡を選び、後者に属する都市として、伝統的都市住居の遺構調査が実施可能であった城下町佐賀を研究対象地として選んだ。 博多・福岡では、近年の考古学と歴史学の研究成果を踏まえ、都市空間の中世的構造を踏まえた中世博多における都市居住の実態を考察し、寺院の境内と門前に展開した都市空間が複合して中世博多を構成し、都市居住の中世的構造は聖福寺境内に展開した借家群に見いだせることを明らかにし、これにより長屋形式のこれら借家群こそが、後の分割・独立によって博多の伝統的都市居住を形成した可能性が導かれ、西日本の伝統的都市住居の存在形態の一端を把握することができた。 佐賀では、18世紀前期から連綿と残された伝統的都市住居の詳細な遺構調査を通して、城下町佐賀における都市空間の形成、そこに成立した都市住居の近世的構造、さらには文献資料を重ね合わせることにより、伝統的都市居住の総体的把握が可能となりつつある。調査結果の詳細な分析は次年度に実施予定であるが、長屋形式の供給住宅とは異なった独立住居に端を発する西日本の伝統的都市居住の存在形態の一端を把握することができると思われる。
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