研究概要 |
1.日本の伝統的都市居住システムの基本を成す町と町家が,東日本と西日本とで大きく異なることに着目し,両地域の5都市の町と町家を比較検討し,伝統的都市居住システムの成立契機の解明を試みた。 2.町と町家の研究蓄積がある江戸と京都に,筆者らが調査した東日本の地方都市の会津若松と,新たに調査した西日本の地方都市の佐賀と博多を加え,これらを総合的に比較検討する研究方法をとった。 3.佐賀では,町家の建築調査を実施し,「佐嘉城下町竃帳」などの文献資料と対照させ,佐賀城下町の都市居住システムの把握に努めた結果,町と町家の存在形態を空間構造と社会構造の両面から把握し得た。 4.博多では,既刊の文献・絵画資料,新出の考古資料を用い,中世後期博多と聖福寺関内の復原を試み,寺社の境内と門前を中核とし,境内に棟割長屋形式の町家が建ち並ぶ,中世都市博多の具体像を提示し得た。 5.佐賀と博多という西日本の町と町家の調査研究成果を,東日本の会津若松と江戸,西日本の京都の町と町家と比較検討して以下の知見を得た。 (1)東日本の町では,格差のある社会構造を内包した町割のため,屋敷割も格差が強調されたが,西日本の町では,公的平等に基づく町共同体の成立を前提とした町割のため,格差のない屋敷割が成立した。 (2)東日本の町家では,店舗商業が未発達のため,近世初頭に付加された店空間の独立性が強く,中央に座敷が配されたが,西日本の町家では,中世に成立していた店空間が住居空間と一体化し,座敷は最も奥に置かれる。 (3)中世の市町が再編された近世地方都市の町家は,妻入が基本で独立性が強く,農家起源と見なせ,中世都市の町割を継承した博多と京都では,間口の狭い平入りが基本で連続性が強く,棟割長屋起源の町家と見なせる。
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