ヘリウム等の稀ガス原子の挙動は、よく研究されている水素と似ている面もあるが、未知の部分が非常に多く、近年ようやく研究が盛んになってきた。これらのガスは照射環境下では核変換生成物として材料中に発生するのみならず、表面処理の方法としてのイオンスパッタリング等の工程でも材料中に侵入する。ヘリウム等は高温での延性を劣化させたり、ボイドスエリングの原因ともなっており、その挙動の解明は焦眉の課題である。本研究では主に熱放出法を用いて金属、及び合金中でのヘリウム等の挙動を明らかにすることを目的とした。 特に、従来のほとんど研究されていない侵入型の状態にあるヘリウム等に付いて重点的に研究するために、極低温でかつ超高真空中でのイオン打ち込みとそれに引き続く熱放出測定を行う目的で、装置を試作した。イオンソース部分の調整が完了していないため、実験はまだ予備実験の域をでていないが、装置は所期の目的を果たすために十分な性能をもつまで調整可能の見通しである。 純バナジウムにヘリウムをイオン注入して、昇温脱離測定を行った結果、原子空孔にそれぞれ、1個、2個、3個、のヘリウム原子が捕捉された複合体からのヘリウムガスの放出過程が観測された。通常行われている方法とは逆に、注入量を次々に低下させつつ測定すると、高温側に新たな放出ピークが出現する。これは、安定度の高い比較的大きなヘリウムクラスターが、注入により導入された格子間原子を吸収して不安定化されたために生じたものである。高注入量では低温に大きな放出ピークが観測されたが、これは表面のブリスターの剥離による放出であることが、走査電顕観察の結果と対応させることにより結論された。極低温でのヘリウム注入実験は、クライオスタットの作製が遅れたためまだ行っていないが、まもなく開始できる見通しである。
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