1.本年度の設備・備品費により、新しく改良型の真空蒸着装置を作製した。この装置の到達真空度は、今までのもの(〜10^<-6>torr)よりはるかに良い、10^<-9>torr台に達するものである。これによって、より清浄な環境下での蒸着が可能になった。 2.本年度の実験研究としては、f.c.c.金属である銅とb.c.c.金属である鉄を用いた。まずこれらの単結晶から種々の面方位をもつ透過電子顕微鏡(TEM)用試料を作製し基盤とした。銅基盤上には鉄を、鉄基盤上には銅をそれぞれ平均厚さが数十nmとなるように真空蒸着させた。試料のTEM観察の結果、以下のようなことを見い出した。 (1)銅基盤上に鉄を蒸着した試料では、鉄はドメイン構造をもって銅の上にほぼ一様の厚さで蒸着される場合が多かった。基盤面方位が(001)や(111)などの低指数面の場合は、Kurdjumou-SachsNishiyama Pitschなどのよく知られたエピタキシャル方位関係が銅と鉄の間に見られたが、たとえば銅(102)面を基盤方位としたときは、銅(102)と鉄(111)が平行となり界面を形成するといった新しいエピタキシャル関係が出現することがわかった。 (2)鉄基盤上に銅を蒸着した試料では、銅は多くの微細な島状に蒸着されていた。鉄の低指数面基盤を用いたときは、やはりよく知られた方位関係が観察されたが、たとえば比較的高指数面である鉄(123)面上に銅を蒸着すると、鉄(123)と銅(112)が平行となり界面を形成するという新しいエピタキシャル関係がこの場合にも観察された。 3.交付申請書には記載していないが、本年度はバルク試料での異相界面の結晶学に関する理論的研究も行った。すなわち、母相と変態生成物(析出物やマルテンサイト)の間の方位関係や結晶学を、弾性エネルギー最少条件に基く小変形理論を用いて解析する手法を提案した。
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