2年間にわたって実験的、理論的研究を行い、下記のような成果をあげることができた。 1.補助金の設備・備品費により、改良型の真空蒸着装置を作製し、従来より高真空の、清浄な環境下での蒸着が可能となった。 2.銅と鉄の一方を平面状の基盤、他方を蒸着金属として用いた研究によって、次のことが明らかとなった。 (1)基盤面方位が低指数面のときは、Kuradjumov-Sachs(K-S)関係などのよく知られたエピタキシャル関係が観察されたが、高指数面基盤を用いたところ、いくつかの新しい方位関係が現れることを見出した。 (2)銅基盤上の鉄は、ドメイン構造をもって一様な厚さで蒸着されていたが、鉄基盤上の銅は、基盤方位によらず多くの微細な島状に蒸着されていた。 3.銅の[001]方位を長手方向にもつ電界イオン顕微鏡(FIM)用の針状試料上に鉄を蒸着した後、試料先端の半球状の基盤の上に蒸着された鉄をFIM観察した。その結果、鉄薄膜は[001]極のまわりに4つの領域に分かれ、K-Sの方位関係をもって蒸着されていることがわかった。 4.実験結果を解析し、エピタキシャル関係の決定要因について考察した。その結果、(1)蒸着結晶と基盤結晶との間のBain対応、(2)2つの結晶の界面の対応性の良さ(不変線をもつ条件)、(3)ミスフィット歪エネルギ-を小さくしようとする効果、が3つの主要因であると結論した。 5.バルク試料の異相界面の結晶学についても小変形理論を基に解析した。この場合も、上の4の(1)〜(3)((2)については不変面をもつ条件となる)が2つの結晶の方位関係や界面方位を決めていることが多いことを指摘し、それらを理論的に予想する手法を提案した。
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