本研究は、非晶質合金の構造それ自身、および非晶質合金中に生成する結晶核の構造をアトムプロ-ブ・フィ-ルドイオン顕微鏡を用いて原子スケ-ルで観察分析し、非晶質相の安定性に関する各構成元素の役割について明らかにする目的で行った。用いた合金は、Pd-Si二元系合金、およびCuを添加したPd-Si-Cu三元系合金である。 先ず、アトムプロ-ブ・フィ-ルドイオン顕微鏡分析によって得られるデ-タを統計学的に処理して三次元の合金微細構造を明らかにする統計学的構造解析法を確立した。次に、アトムプロ-ブにより単一原子単位で質量分析した結果、両合金ともミクロ的には濃度揺らぎがみられた。Si濃度の揺らぎは、Pd=Si合金では8-24at%Siの範囲であるのに対して、Pd-Si-Cu合金では8-40at%Siにまで拡がっており、Pd-Si-Cu合金の方が濃度揺らぎの拡がり範囲が拡かった。Pd-Si合金では二相分離の傾向を示しているのに対して、Pd-Si-Cu合金では二相分離の傾向は顕著ではなかった。Si濃度揺らぎの周期性は、Pd-Si合金では、約4オングストロ-ムの周期で濃度揺らぎがあった。一方、Pd-Si-Cu合金では、揺らぎの周期性がなかった。また、Pd-Si-Cu合金では、Cu原子は2個ずつ塊まって存在する傾向をもち、間にPdまたはSi原子を1-3個挟んだクラスタ-を形成していた。その結果、Cuを添加したPd-Si-Cu合金では、このようなクラスタ-がアモルファス相を安定化させている原因になっているのであると考えられる。 以上のように、Pd-Si合金とPd-Si-Cu合金の電子回折像で同じ一重のハロ-リングを示しても、超微視的構造は異なっていることが明らかになった。上記方法は他の合金系に対しても十分適用でき、今後の発展が期待できる。
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