研究概要 |
本研究者らは、数種類の鉄一炭素二元合金を用いて、鋼の全領域にわたる恒温変態生成物の存在領域(温度,炭素濃度)を示す恒温変態生成相図を作製する研究発表を行っている。現在、鋼の恒温変態で最も関心を集めている点は、上部ベイナイトと下部ベイナイトの生成機構を実験的に明らかにすることであり、そのために顕微鏡によるベイナイト生成の瞬間のその場観察が必要となり、本研究課題もそれを取りあげた。 1)過共析鋼を光学顕微鏡と電子顕微鏡内で恒温変態させて、ベイナイトの生成状況を調べた結果,動的観察ではヴィデオの像の鮮明度が悪く、且つ変態生成物の生成速度が早く明確なデ-タを得ることができなかった。 2)その場観察では研究期間内に研究結果を得ることが難しくなったので、1.10%および1.80%炭素鋼を用いた下部ベイナイトの静的観察結果から、次のような結論を得た。 a)1.10%炭素鋼のフェライトとセメンタイトの晶癖面は、それぞれ(496)fと(101)bと(112)bの中間域に存在した。これに対し、1.80%炭素鋼は,それぞれ(384)fと(101)b近傍とであった。 b)下部ベイナイトとオ-ステナイトとの方位関係は、K-S関係であった。またベイナイトフェライトとセメンタイトの間の方位関係は、Isaichev関係であった。 c)1.80%炭素鋼の下部ベイナイトの結晶学的資料は、格子不変変形として(101)b〔TTI〕bのせん断系がマルテンサイトの現象論の計算結果と良い一致を示すことが明らかとなり、この鋼の下部ベイナイトがマルテンサイト的に生成することが立証された。しかし、1.10%炭素鋼の下部ベイナイトについては、未だ明確な結論を得るに到っていない。
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