銅、鉛、錫の溶融製錬において、原料中の脈石成分と鉄分を、溶剤を添加し、適切なスラグを形成することにより、スラグ相に集め、目的金属を溶融状態で分離回収する。このとき目的金属の幾らかは、スラグ相に溶解したり懸垂し、損失する。目的金属の回収率を上げるためには、スラグへの損失を抑えることが重要である。スラグへの目的金属の溶解損失量は、スラグ生成量と溶解度の積であり、スラグ生成量は物量バランスより推算できる。溶解度は平衡実験により求めることが出来るが、銅、鉛、錫の溶解度は極めて限られたスラグ組成に関するものより報告されてない。これらの溶錬スラグの基本系の一つであるFeO-CaO-SiO_2系スラグへのこれらの金属の溶解度測定を計画し、昭和63年度、錫の溶解度測定は完了し、銅と鉛の溶解度測定は一部のスラグ組成につき終了した。鉛と錫は、FeO-CaOおよびFeO-SiO_2二成分系スラグよりFeO-CaO-SiO_2三成分系スラグに酸化溶解しにくいことが判明した。これは、塩基性のCaOと酸性のSiO_2の間の酸塩基反応により熱力学的に安定なスラグを形成し、この安定なスラグには第三成分が溶解しにくいためと考えられる。銅の酸化溶解において、この現象は極端に現れており、FeO-CaO-SiO_2スラグとCu_2を主成分とするスラグは互に混じり合わず二液相に分離したので、この二液分離に関する平衡状態図も作成した。PbOはSiO_2と強い親和力を有するので、SiO_2の活量の低下に伴い、鉛の酸化溶解度も低下することが判明した。これらの溶解度データは現行の溶融製錬の操業を解析し改善をはかる際、また新溶錬法を開発する際に基礎データとして役立つものである。平成元年度には、銅と鉛の溶解度を測定の終えていないスラグ組成につき求め、本研究のとりまとめを行う予定である。
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