研究概要 |
本年度は本電解質中の物質移動における同位体効果を詳細に調べることを目的とした。本電解質からなるタンマン管状の試料の内外面に白金ペ-ストを焼結し電極とし、これをタ-ボ分子ポンプで構成した真空系に直接接続し、内部を真空に引き、残留ガス分圧を四重極質量分析計で測定した。これらの値と、別に測定した真空系の排気量の値から、試料を透過するガス量を決定した。軽水+重水(1:1)の蒸気を含む酸素およびアルゴンを試料外部に流し、電極間を開回路にした場合(700度C)および電極間に電圧を印加した場合(500度C)について、透過ガスの定量分析を行った。その結果、以下のことが明らかになった。 (1)ガスの透過現象は以前に著者が提出した欠陥のモデルで定量的に説明が可能である。(2)透過ガスの定性分析の結果、電圧を印加しない場合にはH_2O,HDO,D_2Oが主な透過ガスであり、内部を負に電圧を印加するとそれらにH_2,D_2、DHが加わる。(3)電圧を印加しない場合、H_2O,HDO,D_2Oの透過量比は理論的な混合比よりやや軽水素が多くなる。アルゴンを用いると透過ガス量は軽水+重水とアルゴンの混合比にあまり依存せず、H_2O,HDO,D_2Oの透過量比でほぼ1:1:0.5となる。また、酸素を用いた場合には透過ガス量は軽水+重水と酸素の混合比に依存し、酸素が少ない方が透過量は大きい、H_2O,HDO,D_2Oの混合比は1:1:0.3程度となり、軽水素の透過比がアルゴンの場合に比べて大きい。(4)電圧を印加した場合、内部を負として印加すると、電圧の増大とともに、H_2のほか、H_2O,HDO,D_2Oの透過量も増大する。+2Vの印加では、H_2,H_2O,HDO,D_2,D_2Oの透過比はほぼ、8:3:2:1:1となり、軽水素の透過量が重水素の透過量に比べてほぼ6倍大きくなる。この結果は、電気電導度に見られた移動度の同位体効果では説明できず、電極反応速度に何等かの同位体効果が現れているものと推定される。
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