1.目的:オ-ステンパ球状黒鉛鋳鉄は強度および靱性に優れる材料として注目され、実用化が進んでいる。しかし、その基地組織はベイニテイック・フェライトと多量の残留オ-ステナイトからなり、非平衡な状態にあるため、2つの相は大きなひずみを受けた状態にあると推測される。本研究では、これらの状態をX線回折線の解析によって検討することを目的とする。 2.方法:供試材は25mm厚さのYブロックに鋳造した球状黒鉛鋳鉄で、フェライト化焼なましの後、試験片を作製した。オ-ステンパ処理は、オ-ステナイト化900℃×1時間、オ-ステンパ300、400℃×1分〜5時間とした。X線回折線の測定、解析には、自記X線回折装置とパソコンを組み合わせたシステムを用いた。 3.結果:本年度の研究により、以下の結果を得た。 (1)本研究に先立って開発したX線回折線の測定、解析システムの改良を行い、強度の弱い回折線についても、ピ-ク角度、積分幅、半価幅、積分強度などが良好な精度で測定できた。また、これによって残留オ-スナイトの体積率、ひずみの測定精度が向上した。 (2)恒温保持時間とともに残留オ-ステナイトの体積率、格子定数は増大するが、300℃では約30分、400℃では約10分以上で一定になった。一定になった体積率は処理温度によって異なるが、格子定数は同じであった。 (3)残留オ-ステナイトの体積率、格子定数は一定になっても、フェライト、オ-ステナイトの回折線の積分幅、半価幅は保持時間とともに減少し、微視組織、微視ひずみが変化することを示した。これはオ-ステンパ球状黒鉛鋳鉄の諸性質が残留オ-ステナイトの量だけでなく、恒温保持時間によって変化することを示唆する。
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