前年度の研究で見い出した2相ステンレス鋼(Feー25%Crー7%Niー3%Mo)の高速超塑性に関し、変形中の詳細な組織観察を行い、超塑性変形の機構、特に超塑性における動的再結晶の役割を明確にした。さらに、高炭素鋼(Feー1%Cー1.4%Cr)を用いて、球状セメンタイト(θ)が分散した微細フェライト(α)組織を加工熱処理により作製した上で、その超塑性変形前および変形中の組織を観察し、超塑性変形時の動的再結晶出現の有無を検討した。得られた主な結果は以下のとおりである。 1.変形温度1273k歪速度1.7×10^<ー2>/sで1700%以上の伸びを示した2相ステンレス鋼の変形前組織は、粒径1μm程度のα粒とオ-ステナイト(γ)粒からなる微細2相組織であった。しかし、母相αは回復状態の亜結晶粒で、α粒界は粒界すべりを起こしにくい小傾角粒界であった。この母相αは変形初期に動的再結晶し、α粒界は粒界すべりに好ましい大傾角粒界へと変化した。母相αの再結晶後の変形組織には転位がほとんど観察されず、本鋼の超塑性の主たる変形機構は粒界すべりであることが明らかとなった。さらに、動的再結晶の役割は、変形初期に粒界すべりに好しい微細等軸2相組織を形成することにあると結論された。 2.高炭素鋼をパ-ライト変態後、923Kで90%の温間圧延を施すことにより、α中に球状θが微細に分散した組織を得た。このα粒の大部分は亜結晶粒(粒径0.7μm)であり、α粒界は粒界すべりを起こしにくい小傾角粒界であった。これを973kで引張変形したところ、歪速度5×10^<ー4>/sの場合、230%と従来の報告に近い超塑性伸びを示した。変形中の組織変化を観察した結果、少なくとも140%変形までにα粒界は大傾角粒界となっていることが確認された。これより、高炭素鋼においても2相ステンレス鋼と同様に、亜結晶αは変形初期に動的再結晶して粒界すべりに好ましい組織へと変化することが明らかとなった。
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