原子炉や核融合炉に使用される材料は、中性子やα線、β線、原子などの高速粒子の衝突を受け、そのときの照射損傷として材料が受ける影響が、炉の耐久性などに関して重要な問題となっている。現在考えられる材料はFeを中心とする各種合金であるので、Feの格子欠陥の性質を理解することが必要である。本研究はこれまでにあまり行われていなかった磁気異方性、磁化、磁壁の移動などの磁気的な測定手段を利用して高速粒子線の照射によって生成した格子間原子の対称性を中心とした構造や性質を明らかにした。 まずワイドレンジトルク磁力計を製作し、FeおよびNi単結晶中に高速中性子および高速イオンを照射し、それによって生じた磁気異方性成分を検出した。トルク成分の解析により、低温でのFe中の格子間原子の対称性は110ーダンベル構造であり、Ni中のそれは100ーダンベル構造であることを示した。さらに温度の上昇とともに、Feの場合には格子間原子は(111)面ヘクラスタ-ル-プとして成長し、またNiについては(110)面へ集合してゆくことがわかった。 つぎに電子線照射した単結晶試科の超高圧電子顕鏡による磁壁の観察により、Feの場合にはNiと比べて変化が小さいことがわかった。これらの実験結果からFe中の格子間原子は磁気モ-メントを減少させて、それ自身の体積を縮小させていることが結論された。 理論的には格子間原子はその周りから高い圧力を受けているのと同じ状態と考え、モデルdーバンド、またはLMTO法によるバンド計算を行い、磁気エネルギ-を考慮して、そと安定性および熱的性質を調べた。その結果格子間原子の性質が統一的によく説明できた。この結果は新実用合金材料開発の基礎となる。
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