研究概要 |
前年度には、イオンビ-ムスパッタリングによる超格子積層膜の作成技術と、X線回折による積層構造の評価法を検討した。本年度では、近年磁気光学記録材料として注目されているPt-Mn-Sb系化合物をとりあげ、この系における超格子積層膜の作成およびその固体反応にともなう化合物形成を調べ、それらの磁気特性を評価することを目的とした。 Pt(4N),Mn(3N),Sb(6N)を円盤状に配置したタ-ゲットを回転しながらAr^+イオンビ-ムを用いたスパッタにより、Pt/Mn/Sb積層膜を得た。基板にはガラスおよび(001)NaClを使用し、基板温度は室温〜350℃の範囲で変化した。なお、ガラス基板上には下地層としてあらかじめ2〜200nm厚のPt層をスパッタ成膜した。積層構造の設計値は各構成層の厚さを2nm、積層周期6.0nmとし、積層数を12あるいは60とした(これらを例えば、(Pt〔2〕/Mn/〔2〕/Sb〔2〕/12)と略記)。また、積層膜の平均組成はこの設計値から各構成層の厚さを変化することにより調整した。積層膜の固体反応は500℃までの温度での真空中等時焼鈍(30min)により進行させた。低角X線回折強度の解析によれば、設計値(Pt〔2〕/Mn/〔2〕/Sb〔2〕)/12なる積層膜はほぼ(Pt〔1.8〕/Mn〔1.6〕/Sb〔1.6〕)/12程度の構造を持ち、かつ各積層には約10%程の積層周期の乱れが存在することが知られた。透過電顕観察によれば室温基板に成膜された積層膜は非晶質状であり下地Pt層からのエピタキシャル的な成長は認められなかった。固体反応は約300℃以上の焼鈍温度で見られ、積層膜の構成層の厚さ(平均組成)によりPtMn,PtMnSb,PtSb_2なる三種の化合物が同定された。単相のPtMnSbは(Pt〔1.6〕/Mn/〔2.2〕/Sb〔2.2〕/60)なる積層膜を300℃、30minの焼鈍により得られ、その結晶学的配向性は下地Pt層の膜厚、配向性に依存した。また、この配向性はPtMnSb相の磁気特性に大きな影響をおよぼすことが知られた。
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