研究概要 |
オ-ステナイト系ステンレス鋼溶接部を腐食環境下にさらした場合にその熱影響部に見られる結晶粒界腐食(ウェルドディケイ)は、クロムに富んだ炭化物の粒界析出に伴って生じる粒界近傍でのクロム欠乏に起因することが知られている。このような粒界腐食を防ぐために、母材中の炭素量の低減、Ti,Nb,Zr等の添加による安定化処理、溶接入熱制限、溶接後の溶体化熱処理等が考えられており、いずれも粒界への炭化物析出を抑制するか消滅させる方法がある。一方、最近の結晶粒界構造に関する研究から、粒界析出及び腐食は粒界の性格に強く依存することが明らかにされてきていることから、粒界の性格を制御することによってウェルドディケイを防止できる可能性があると考えられる。そこで、304型オ-ステナイト系ステンレス鋼をア-ク溶接し、溶接熱影響部での粒界析出及び腐食と粒界の結晶学的性格並びに粒界構造の関係を、走査電子顕微鏡のエレクトロンチャンネリングパタ-ン並びに透過電子顕微鏡の菊池線解析を利用して調べた。その結果、溶接熱影響部中においても、粒界腐食の程度は粒界によってかなりの差があり、また炭化物が析出している粒界としていない粒界が混在していることがわかった。そして、粒界炭化物析出及び腐食は、粒界の性格及び構造に大きく影響を受け、規則度の高い粒界(対応粒界)は粒界析出し難く腐食され難いことが明らかにされた。従って、粒界の性格を制御することによって材料中に規則度の高い粒界の頻度を増やすことができれば、ウェルドディケイをある程度防止できるものと考えられる。
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