チタニア(TiO_2)、ジルコニア(ZrO_2)、チタン酸鉛(PT)及びバナジン酸イットリウムなどを代表化合物として選択した。それぞれの薄膜を金属アルコキシドを原料とするディップ法(ゾルゲル法:ここでは当研究室で開発したエタノールアミン法)を用いて合成し、それぞれの膜の結晶化過程、結晶構造について検討し、膜を合成する条件との関連についても調べた。特にTiO_2とZrO_2膜については超高分解能透過型電子顕微鏡を用いて膜の状態について観察し、またPT膜については、膜結晶成長の異方性及び基板の結晶性の影響について特に興味が持たれたので、各種酸化物単結晶板上にコートし、その基板の影響を調べた。それらの結果、以下の興味ある結果が得られた。 1)結晶化温度以下(300〜400℃)の熱処理ではボイドの少ない均一アモルファス体となり、効率よく有機物が消散すると考えられる。 2)結晶化温度近くで膜全体に規則的な格子縞類似の模様が現れ、結晶核が発生していることがわかる。加熱時間の増大や温度上昇によって結晶粒が観察されるようになり、充分発達した結晶粒の間には特に不純物が偏在している様子はない。中間段階ではアモルファスの海に結晶子が浮かんだ構造をもつ。 3)結晶構造はディップ溶液の組成や基板の影響を大きく受けるが、アモアルファス基板上でも高度の配向性をもつ傾向が存在する。 4)アモルファス基板上のPT膜の結晶形は原料溶液濃度(即ちコーティング膜厚)に依存し、低濃度ではバイロクロアー型として結晶化する(500℃)が、高濃度ではペロブスカイト型に結晶化する傾向が存在する。また、結晶性基板上ではペロズスカイト型に結晶化し、特にチタン酸ストロンチウム単結晶板上[(100)カット]ではc-軸方向に強く配向する。従って基板の結晶化過程に対する影響(エピタキシャル効果)は非常に大きいことが分かった。
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