初年度はゾル-ゲル法でアルミナ繊維を合成することを目的とし、ゾル中の粒子の形状とゾル-ゲル反応で発現するゾルの曳糸性の関係および流動特性の関係について検討し、繊維生成機構について考察した。その結果、円形か粒状の粒子を含むゾルは曳糸性がなく構造粘性を示すが長い形の粒子を含むゾルは曳糸性を有し粘性流動を示すことがわかった。またゾルの透過電顕観察と凍結乾燥ゾルの光顕観察の結果に基づき、溶媒の水が蒸発するにつれ、ゾル中の長い粒子がもつれ合うことなく互いの間隔を狭め、それを引き上げると粒子が結合しつつ縦長に連なるために繊維が生成すると説明した。 上記曳糸性を示すゾルは無機塩化物を原料としたが、次年度ではすべて硝酸塩を用いて曳糸性の良好なNa_2O-Al_2O_3系ゾルをつくり、それからゲル繊維を紡糸し、イオン伝導性β-Al_2O_3繊維の低温合成の研究を行なった。加熱時にはバルク体と異なりゲル繊維からのNa_2Oの蒸発が著しかった。原料として塩化物を用いると、アルカリの多いゲル繊維を用いても、約800℃でアルカリの多くがNaClとして逃散するために、目的とするβ-Al_2O_3(Na_2O・11Al_2O_3)結晶からなる繊維が得られない。硝酸塩を原料とすると、アルカリの多いNa_2O・8.8Al_2O_3およびNa_2O・5.5Al_2O_3組成のゲル繊維から約1000℃でそれぞれ20分および10時間加熱することにより約0.2μmのβ-Al_2O_3結晶粒子からなる繊維が得られることがわかった。また後者の電気伝導度は、20℃で1×10^<-6>S・cm^<-1>(1KHz)、300℃ではこの約1000倍大きくなることが分かった。また曳糸性を低下させない範囲でMgO成分を加えて作製したゾルを用いて焼結アルミナ基板にコ-ティングし、再度、1100℃で加熱したときβ-Al_2O_3よりイオン伝導度の大きいβ"-Al_2O_3結晶からなるコ-ティング膜が得られることを明らかにした。
|