有機化合物の電極反応の多くは吸着現象を伴うため、しばしば複雑な形状の電流-電位(i-E)曲線を与える。このようなi-E曲線を定量的に解釈するための第一歩として、電極反応活性種が単分子層として吸着している場合の一電子レドックス反応について、分子間相互作用を考慮したi-E曲線の理論式を先に導いた。解析を通用するための典型的な例として考えられる種々のアルキル鎖を有するビオロゲン類の電極反応を昨年度に引き続き、水銀電極及びグラッシ-カ-ボン電極で検討した。ジヘプチルビオロゲンは水銀電極において、溶液中の種の還元・酸化が起こる電位より約0.2V正側に鋭いピ-クをもつ吸着種特有の還元波及び酸化波を与えることが見い出され、その電気量は一定濃度以上では飽和単分子層吸着に対応することが明らかとった。先の理論式を適用して、電極反応速度パラメ-タ-、相互作用パラメ-タ-を適当に選び電流-電位曲線を理論的にほぼシミュレ-トできることが見い出された。しかしながら、あたかも吸着種のレドックス反応によると考えられる酸化還元波は、吸着種の相転移のみによる非ファラデ-過程でも類似の電流-電位曲線を与えることがあることが明らかとなり、ビオロゲンについて見い出された酸化還元波が、電子移動を伴う反応によるものか、単なる相転移のみによるものか、見きわめる必要があり、更なる検討を必要とする。二段階の一電子移動を含む吸着種のi-E曲線についても、可逆の場合に分子間相互作用を考慮したサイクリックボルタンメトリ-の理論式を導いた。導電性高分子は一種の吸着種と見なすことができるが、本理論式を適用して、これら高分子のド-ピング・脱ド-ピング過程を取り扱えることが示された。
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