1.前年度、化学結合間のシグマ電子非局在化機構を解明するために開発した理論モデルと解析法を用いて、C、N、Si、P化合物の研究を行い、以下の結論を得た。 (1)通常(例えばπ-電子)電子の非局在化は、供与体と受容体間に電子を溜める(結合性)効果があるが、δ-結合間では反結合性である場合がある。 (2)ジェミナル結合間では、結合角が大きくなるにつれて、δ-電子は非局在化する。 (3)結論(1)(2)のため、シクロプロパンの異常な安定性は、従来言われていたδ-芳香族性が原因ではなく、反結合性の電子非局在化が少ないことによると考えられる。 (4)SiSi結合のシグマ電子は非局在化しやすい。 (5)P-P結合をつくる混成軌道はp性が高く、高歪み化合物を形成しやすい。 2.シクロペンタジエンのπ面選択性に及ぼす5位置換基の効果は、置換基の軌道エネルギ-により反応点でのフロンティア軌道の性質(広がりの面非等価性と局在性)が異なるためである可能性が強く示唆された。 3.π-過剰へテロ芳香族のメチル基から脱プロトン化する方法を初めて開発し、2-メチルインド-ルから直接C、N-ジアニオンを発生させ、メチル基に位置特異的に官能基を導入することに成功した。 4.ヘテロ縮合5員環芳香族異性体の相対的安定性を支配しているのが、6e/4p、6e/5p共約でなく、6e/6p共約であることを明らかにした。 5.置換基効果の新しい側面を明らかにし、立体配座適応と名付けた。置換基は母核の電子授受に適応して立体配座を変え、その電子供与一受容能の序列は一定でない。
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