研究概要 |
電圧や電流の変化により物質に誘起される発消光現象を"エレクトロクロミズム"と呼んでいるが、この物性を示す物質系はディスプレー等への機能応用があり今日注目を集めている先端技術の一つである。現在実用化にある物質群としては圧倒的に無機系のものに限られているが、ビオローゲン、フタロシアーン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン等の有機系のものも使用されている。有機系のものは無機系のものに比べ、(1)低電圧作動、(2)広領域色調、(3)色調の鮮明、そして(4)多色表示の可能性等においてより優れた性能を有している。本研究では、多段階のレドックス系を構成する新しいπ共役化合物を合成し、これを構成成分とする新しいタイプの多色エレクトロクロミック有機材料の開発について検討する。本研究でとくに注目したπ共役化合物は、(1)1,3ージチオール〔n〕デンドラレン(n=2〜4)、(2)1,3ージチオール〔n〕ラジアレン(n=3〜6)、そして(3)レドックス活性な2,6ージーtertーブチルー4ーヒドロキシフェニル基で置換されたチエノ〔3,2ーb〕チオフェンである。本年度では、従来までの知見をもとにこれらの化合物を困難なく合成することができた。そこで、これらの化合物の酸化還元挙動及びそれに伴なう色調変化を、サククリックボルタメトリー及びUVを用いて調べた。1,3ージチオール〔n〕デンドラレン(n=3,4)、1,3ージチオール〔4〕ラジアレンはいずれも可逆的な2電子移動酸化還元過程を示し、色調変化も黄色から青緑色さらに青色、あるいは黄色から青色へと極めて鮮明であった。一方、チエノチオフェンでは可逆的な2ー及び4ー電子移動酸化還元過程を示し、淡黄色から青色さらに赤褐色への鮮明な3色変化が観測された。以上、これらの化合物はいずれも多色エレクトロクロミック有機材料の構成成分として有望視される。
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