組織細胞は接着依存性の細胞であり、これらの細胞をinvitroで培養するためには優れた細胞接着性基材が必要となる。本研究では、高分子電解質錯体(PEC)を用いて細胞(特に肝実質参謀、インスリン産生細胞株)の長期培養、機能評価を行ない、以下のような事を明らかにした。 1.非活性細胞の接着、非生理的条件下での接着、裏打タンパク質の影響などの実験より、PECに対する肝実質細胞の接着は、コラーゲン、フィブリネクチンなどへの接着機構とは異なり、主に静電的相互作用、疎水性相互作用などを介した非生理的接着機構により接着する。 2.接着した肝実質細胞の機能(アルブミン合成能、酵素活性など)は、最適なPECを選択することにより、従来最も良い細胞培養用基材として知られているコラーゲンと比較しても、同等もしくはそれ以上の機能を長期間に渡って維持する事が可能である。 3.インスリン産性細胞株を用いた実験においては、PEC構造(特に疎水性)により細胞凝集状態が異なり、親水性PECでは3次元凝集塊を作るのに対し、疎水性が増すと共に、単層形成となる。またインスリン分泌量は3次元的に細胞凝集塊を作るものが最も高く、細胞凝集状態と細胞機能が深く関係している。 4.細胞接着、機能維持に関して、細胞種により最適のPEC構造が異なる事が明らかとなり、他の細胞腫を対象とすることにより、細胞の認識という情報が得られる事が予想される。 このように、PECは細胞培養基材として、従来とは異なる型の接着機構を有し、優れたものであることを明らかにした。
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