本研究では電子伝達能をもつビオロゲン(V^<z+>)をとりあげ、その分子内に他の機能団を有する多機能性ビオロゲン誘導体の設計と合成を目的として、分子内にアゾベンゼン(Ab)構造をもつビオロゲン誘導体を種々合成しその酸化還元挙動について検討した。 1.ビオロゲンとアゾベンゼンを〓CH[_<2]>〓[_<n]>で結合したビオロゲン誘導体1a(m=1)、1b(n=2)、1c(n=3)を合成し、エタノールと緩衡液(pH5.0、70.、9.0)の1対1混合液中でサイクリックボルルタモグラムの測定を行った結果、1aと1bについてはいずれの溶液系でも通常のV〓、Abに基づくピークのみが観察された。1Cの場合、酸性条件ではAbの還元波が見られずV〓の第一還元波が大きくなったことから生成したビオロゲンカチオンラジカル(V.[^<+]>)から分子のAbに電子移動したと考えられる。次に1a〜1cのアゾベンゼン部分をヒドラゾ対に転換し中性条件でヒドラゾ体からV〓への電子移動の速度を求めた結果、1aと1bの場合は相当する参照化合物の分子間電子移動に比べて約2倍速くなり、分子内で電子移動したものと考えられる。1cの場合は分子間に比べて約10倍速く、このことは1a、1bに比べてヒドラゾ体とV〓が近づいたコンホメーションをとりやすくなっていることを示唆するものである。このように1cでは両官能基間の電子移動が効果的に起こり、pHによりその芳香がコントロールできることがわかった。2.1cの構造をより強い相互作用が期待される高分子に組込むためにビニルプロピルビオロゲンとビニルアベンゼンの共重合体2を合成した。2について前述と同様にヒドラゾ体からV〓への電子移動速度を求めた結果1cよりも速い電子移動が観察された。以上のように両官能基の分子電子移動をより効果的に進行させるためには両官能基が近づいたコンホメーションをとれるように分子構造を設計することが重要であることが明らかとなった。
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