研究概要 |
酸性有機リン化合物(di(2,4,4-trimethy pentyl)phosphinic acid)を抽出剤として用い、水溶性錯化剤(DTPA)を共存させた溶媒抽出法による希土類元素(Er、Y)の選択的分離について、実験的及び理論的に検討した。 本系の解析には希土類-DTPA錯体の解離反応に関する知見が不可欠であるため、まず、水相中におけるその反応特性について動力学的研究を行なった。DTPA錯体の安定度定数は非常に大きいことから(Er;10^<22.74>Y;10^<22.05>)、DTPA錯体の解離反応を直接求めることは困難であったため、DTPA錯体と他の希土類元素との交換反応について検討した。反応機構の解明を通して得られた解離速度定数は、Y-DTPA錯体の値がEr-DTPA錯体の値よりも約5.8倍大きいことがわかった。 次に平面接触攪拌槽を用いて、DTPA共存下における溶媒抽出法によるEr/Yの選択的分離実験を行なった。本系のような非平衡操作で得られた抽出速度比は約5.5であり、平衡分離である通常の溶媒抽出法による抽出定数の比(1.47)と比較して格段に大きな値といえる。このような分離比が得られた理由としては、各希土類元素と水溶性錯化剤との平衡定数の違いによるフリーの希土類元素濃度の差(マスキング効果)、及び水相中における希土類元素-DTPA錯体の解離速度の差が相乗的に働らいていることがわかった。各場合における選択性を系統的に比較し、高選択性の実現には、界面反応律速あるいは水相境膜内におけるDTPA錯体の解離反応を伴う拡散律速下での操作が望ましいことを明らかとした。 さらに、実用的な観点から重要と考えられる液滴分散系を用いて検討した。この場合にも非平衡分離が達成されており、得られた選択性は平面接触攪拌槽の場合とほぼ同様の値(5.5)であった。 平面接触攪拌槽及び液滴分散系の両場合とも、得られた実験結果は水相境膜内におけるDTPA錯体の解離反応を考慮して定量的に解析された。
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