研究概要 |
先端技術の発達に伴って、結晶生成物の純度・形状・粒子径に対する要求はますます厳しくなっている。これに対し、従来の工業晶析操作は経験に依存する部分が多く、これらの要求に十分応えられる状態には至っていない。その最大の理由として、(1)結晶化過程で固相と溶液相の界面で起こるミクロな過程が十分に解明されていない、(2)ミクロな過程を支配する因子と、工業晶析におけるマクロな操作因子との関係が明確でない、(3)晶析槽内を運動する多数の結晶粒子分のマクロな力学的挙動の効果が十分考慮されていない、の三つがあげられる。 本研究では、(2),(3)の問題を解決するための新しい工業晶析理論を構築し、この理論を基にして、結晶の粒径分布が制抑でき、かつ高純度で歪の少ない結晶を製造できる新しい晶析操作の開発を行った。 晶析槽内の流れ場として、速度分布や温度分布がよく知られており、かつ安定した循環流と温度勾配を形成するベナ-ル対流場を用いた。この晶析装置の特徴は、流れ場形成のための機械的可動部分が含まれていないために、攬伴翼との衝突などによって生じる不確定要因が少ないこと、結晶粒子が過飽和領域と不飽和領域の間を何度も循環することによって、不純物や歪の少ない結晶が得られることである。 理論解析では、実空間に粒子径の座標軸を加えた新しい位相空間内で結晶粒子の運動を考えることによって、晶析槽内の結晶粒子群の運動と溶解・成長の関係を明きらかにし、粒径分布の計算を可能にした。この解析モデルによって、所定の平均粒子径と分布幅を持つ粒径分布を得るための操作条件の選択が容易になった。工業晶析理論にコンピュ-タ・シミュレ-ションを積極的に援用した本解析モデルは、従来の工業晶析装置の解析にも適用でき、それによって新しい知見が得られるものと期待できる。
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