免疫応答の調節機構の研究は、主にマウスのリンパ球を培養し、in vitroで免疫応答を誘導する実験系を利用して行われてきた。このような培養系に於いては、通常ウシ胎児血清(FCS)を10%添加した培地を用いるが、使用するFCSのロットにより免疫応答に大きな差異の生ずることがしばしば報告されている。我々はこのような問題点を克服するために、一次抗体産生を、血清添加培地と同等に誘導できる無血清培地の開発を行ったのでその概要をのべる。 1.β-シクロデキストリンが血清代替物として極めて有用であるという発見に基づき、β-シクロデキストリンを含み、アルブミン、トランスフェリン、インスリンを添加したRPMI-1640培地を基本培地として培地組成の最適化を行った。ここにFCSの脂容性画分を加えると抗体応答が増強された。この画分の有効成分を精製したところコレステレロ-ルと同定された。更に、遊離のコレステロ-ルよりもLDLの形で添加した方がより効果的であった。 2.上記の培地における応答を更に促進する物質を検索したところ、プトレシンとL-アラニンを同時に加えると最も有効であることを見いだした。以上述べた各種の成分の至適濃度を決定し、FCS添加培地と同等の効率で一次抗体応答を誘導できる無血清培地の確立に成功した。 3.我々の開発した無清血培地は、T細胞の分化増殖においても十分使用に耐えるものであることが確認された。 4.一次抗体産生とT細胞の分化増殖を比較すると、無血清培地の培地成分に対する要求性において特に大きな差異は見いだされなかった。したがって、我々の開発した無血清培地はリンパ系細の分化増殖の研究に広く適用できるものであることが明らかとなった。
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