本研究は従来から遺伝分析の進めて来たマツバボタン属植物の系統を用い、花色形質を取り上げ、標的遺伝子、酵素等の特定化、分離・抽出を試みる一方、プロトプラストへの取り込み、色素発現細胞との融合等新らしい遺伝子交換系開発を目指して実施したものである。得られた結果の概要は次の通りである。 1)ベタレイン色素高生産性細胞株を見出そうとして、マツバボタン各系統の実生由来のカルスを培養する中で色素形成は光照射に依存し、照射方法を工夫しながら10ケ月にわたって高色素生産株を選抜した。色素生産能力は当初の無選抜株に比し、約4倍量を示した。 2)次に培養系統ならびに生体各部位からプロトプラストを単離・培養し生理活性の高いものを得た。また、カルス小塊の段階で微量の色素を抽出し、HPLCを用いた検定法を開発し、形質の発現をチェック出来ることを確認した。 3)一方、色素形成に関与する遺伝子作用の検討と色素合成過程に働く酵素の特定化には多くの時日を要した。ベタレイン色素の前駆体であるチロシンが、有色系統のある発育段階で異常に蓄積される事実を発見し、チロシンカからド-パおよびベタラミン酸への合成過程で2つの異なる遺伝子作用を推定し得た。 4)さらに、同花色素の前駆体合成に関わる酵素タンパク質を特定するため、SDS-PAGE電気作動法を用いて検討したところ、特異的タンパク質を数種見出し、目下基質特異性を調べ、単離および一次構造決定を試みている。 プロトプラストへの特定遺伝子導入策および異系統細胞との融合操作については具体化を工夫中である。
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