稲属各種の品種生態学的特性を明らかにする目的で、現在世界各地で使用されている多収穫品種のみならず、古くから利用されている品種は勿論のこと、それらの祖先型である野性品種をも使用に供した。それらは自己採集(インド、フィリピン、ニューギニア、インドネシアなど)による材料約200品種・系統を対象としている。実験項目及び本年度内に得られた研究実績の概要は以下のとおりである。 1.成分分析:全生育過程に亘って稲体の成分を分析し、種間、種内及び品種間に大きな変異が存在することが見出された。 2.細胞間隙:稲体の内部に発達する破生及び離生細胞間隙は、栽培環境によって著しく異なる。これは栽培技術的にみると耐湿性、耐冠水性と深い相関関係を示す。この形質が優れた品種、また発達の早い品種ほど卓越した環境適応性を示す。水分関係のみならず、温度条件との組み合せによってどのように変化するかを中心的な課題として、種、品種、環境間の相互関連性は複雑であることが判った。 3.開花習性:本研究では様々な開花形質のうち、開花時間、開花率一穂上の開花頴の位置関係を調査目的としている。これらは出穂の揃い、交雑率、時間的隔離機構、多花愛情率などを解明するのには基本的な形質である。注目すべきこととして、時間差開花の現象はある程度原産地の地域に特性が認められたことである。 4.出葉周期:発芽直後から、出穂直前までの出穂周期、出葉速度を追う。この過程は、未だ解決されぬままに肥培管理が行なわれているきらいがある。日本産の材料が最も群内変異が小さく、低緯度地方の材料は、かなり広い変異幅を、両形質にわたって示す傾向がある。 5.纏め:なお、変異性を追究する場合には個体数を増やす必要があるが、古い品種ではこの面を更に厳重に検討すべきであると言える。
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