本研究は、多くの稲作地帯及び稲属植物の分布地域から現地調査で得た材料を用いて稲属が示す幾つかの基本的農業形質をそれぞれの形質が種間・系統間・地域間・生態条件間によって示される変異を調査し、品種群分化の過程を明らかにすることによって将来の世界的稲作の進歩に対する展望を検討したものである。 (1)胚乳澱粉内のアミロ-ズ含量は12.4%から29.1%(平均24.1%)の変異幅を示し、全系統は極低含量から高含量までの4型に分類され、種間、地域間に大きな差が見い出された。 種子貯蔵蛋白質も同じ傾向がある。 (2)水文環境適応性に最も関係の深い細胞間隙の発達経過・傾向をみると、全般的に根は40%から70%、葉は5%から52%の変異幅がみられた。また水田作・陸稲作の間で、優れた環境への速い反応が確認された。 (3)出穂習性について分析した結果、現在の稲作慣行に適合した反応のほか低緯度地方に強い感光性を示す系統がある点、感光性の強・中・弱の系統が混作されている点など、新しい稲作地域の材料には、感光性の強弱やその程度において多くの疑問点が見出され、今後の育種や品種選択上、極めて重要な知見を得た。 (4)出葉周期については花芽形成期以降に重点を置いて解析した。短日条件挿入に感応して出葉周期が変化する傾向で捉えてみると、種間の系列、すなわち、一年生から多年生へ、において出葉周期鈍化の傾向が明確に早く成ること、アフリカイネやその近縁間にこの傾向がないことなど、多くの事実が確かめられた。 (5)いずれの形質においても、種間、系統群間、品種間、地域間に大きな変異性が確認された。なお、得られた知見は、それぞれの原産地の地理的及び生態的条件との適合性との間で検討することによって、現在の稲作慣行の適応性と栽培様式の検討が不充分な地域における問題点が浮き彫りにされた。
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