野生型ヤブツバキ(Camellia japonica)は現在の間氷期に南西諸島南部から東北地方の青森県まで分布を拡げている。本研究では、これら各地の野生型ヤブツバキ群落、とくに日本北部におけるそれらの生態的、形態的そして遺伝的調査を行い、下記の成果を得た。 まず、葉芽の形態的調査によって分布の北進によって増加する苞数と耐寒性との関連性について、他種とも比較して耐寒性獲得の様相を明らかにすることができた。また北限地と目される青森県深浦町に分布する群落では冬期の厳寒積雪下において、地下に横に伸長する根が、あたかも根茎の様に働いて多くの株を地上に伸長させ、クロ-ンによる群落形成を行うという特異な形態形成の実態が示唆された。 ついで我が国に分布する野生型ヤブツバキ群落の遺伝的組成についてのアイソザイムパタ-ン分析の結果では今間氷期の北進分布の経過によって異型接合の度合が異なり、北限地に近づくに従って同型接合の度合をやや増すことが明らかになった。 また、ツバキ属植物の花芽形成と開花の間の時間的つながりが見られ、とくにヤブツバキにおいては花芽分化の6々月から8々月後に開花に到る場合が多く、芽の休眠の程度に関わりなく進行することが明らかになった。 以上のほか、ヤブツバキと他種との種間雑種の育成と、その増殖に関連した組織培養によるクロ-ン苗の大量生産に関する基礎的研究は現在継続中である。
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