切花用のデンドロビウムは、熱帯アジア、オセアニアに分布する2つのセクションの原種に由来する一群の交配種であるが、今年度の実施予定はその中の主要品種の収集と、生長サイクルの一部について各品種の発現の特性を調査することであった。 収集については予定どおり実施を完了したが、その時点で植物の生長サイクルはすでに開花期に移行していたため、発育生理については開花の諸形質についての調査と、その際に見られる落蕾現象にまとをしぼって検討した。この現象は開花直前に大きくなった蕾が急に黄化枯死するもので、デンドロビウムにおいては開花生理に付随する学術的な解明と、栽培の現場における応用の面で課題になっているものである。 その主要因としては、まず環境の急激な変化が考えられるが、環境制御装置を利用して調べると、昼夜温とも20°Cの低温下、同じく35°Cの高温下でよくおこることがわかった。また昼夜温の差を大きくとり夜温を10°C程度に下げたときにもよくおこり、温度の急激な変化、高温低温における恒温状態は落蕾の主要因であると判断された。また湿度についても相対湿度95%の過湿条件は落蕾をおこす要因となることがわかり、ハウス内栽培における環境条件の配慮はきわめて重要なことと判断された。 落蕾現象についてもうひとつの植物側の有する内的要因として、花蕾の生成するエチレンの量についても検討を加えた。開花直前の蕾の出すエチレン量は、密封後4時間の時点で約50nl/g/hで、落蕾のおきにくい中程度の蕾で少なく、また生理的落花がほとんどない開花後の花においてはかなり少量というように、栽培現場における現象を裏ずける数値が得られた。しかし品種間においては、花蕾のエイジング、試料の採取時期などに課題は残されている。
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