研究概要 |
電子スピン共鳴法はラジカル生成を直接測定出来るが、測定条件の設定が難しい。そこで種々条件下における植物体内のラジカル生成の変動をどのような条件で測定すれば良いのかについてまず検討した。試料を液体窒素で凍結させ、超低温下で測定すると、確かにラジカル生成を測定出来るが、ノイズが入り易い等の欠点があった。次に試料を凍結乾燥し常温で測定すると、同じラジカルが検出出来るばかりでなく、ノイズも少なかった。また、植物体から検出されるメジャーなラジカルは安定であり植物体内における変動を追跡する上で有効な手段であることが確認された。この方法を用いて植物組織の切断後のラジカル生成の変動をみてみると、褐変の進行とともにg=2,004付近に幅約8Gのシングレット吸収が増大した。興味あることに褐変を抑えることが知られている食塩水浸漬処理をすると、この吸収と褐変が抑えられるが、新たに幅450Gにわたる六つの等間隔、等吸収量からなる特徴的なラジカルが検出されるようになった。その後の試験からこの特徴的なラジカルはマンガン錯体によると考えられ、この結果をAqric.Biol Chem.52:2977-2979(1988)に発表した。この発見は植物の褐変機構を解明する鍵を握っているものと期待される。また、製茶やホウレン草では上記シングレットラジカルの他マンガン様ラジカルの生成も検出された。そこで製茶工程の各段階におけるラジカルの変動を調べてみると、マンガン様ラジカルの生成量は一定であったが、シングレットラジカルは増大していった。さらに殆どの植物体内にシングレットラジカルの生成が確認されたが、病原細菌の接種やエリシター処理によりこのラジカルの生成が増大することが判明した。一方、病原菌の種類によっては、このラジカル生成を利用して発病因子である植物組織崩壊酵素を生成する場合もあった。最終年度はこれらの結果を基に植物病害の耕種的防除法を検討する。
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