1.主として鱗翅目害虫の防除に用いられている合成ピレスロイド剤は、一方ではそれまで潜在的な害虫であったハダニ類の多発をひきおこし、いわゆるリサ-ジェンス現象が問題になっている。本研究ではリサ-ジェンスのメカニズムを解明する目的で、数種のピレスロイド剤散布下でのハダニ類およびその天敵類の発生動態を調べ、またハダニ類の発生種の動態についても調べた。 2.ナス圃場で、殺ダニ活性の異なる3種のピレスロイド剤の散布実験から、リサ-ジェンスは殺ダニ活性の強さにかかわらず起こり、散布しない場合に較べてハダニの発生レベルは10倍以上に達した。 3.リサ-ジェンス最大の要因は、ピレスロイド剤による捕食性天敵の壊滅的な減少で、特にハダニ類の個体群密度制御に重要な働きをしめす捕食性ハナカメムシが、薬剤の殺虫・忌避効果によって散布後2週間以上も侵入を阻止されるために生じた。ケナガカブリダニもハダニ類の重要な天敵で、これもピレスロイドによる悪影響を受けたが、ハダニへの制御効果はハナカメムシほどではなかった。 4.リサ-ジェンスのもう一つの重要な要因とされてきたピレスロイドのハダニに対する忌避効果とそれにともなう分散促進効果は本研究でも認められたが、それによってハダニの空間分布パタ-ンが大きく変化したり、その結果ハダニの個体群増殖率が有意に高くなることはなかった。 5.ハダニ類の種類相変化については、散布下ではTetranychus層が増え、逆にPanonychus属が減少する傾向があった。この原因は、後者のほうがピレスロイドに対して活性が高いことによると思われるが、散布によって天敵相が変化することも種類相の変化に関与すると思われる。
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