本研究は植物病原菌の病原性発現に関わる遺伝子の分子レベルでの解析を行い、植物病原菌の寄生能の分化、また、作物病害の防除を考える基礎的研究である。具体的には、分子遺学的立場から、病原性の実体を細密に解析することを目的とし、植物病原菌の形質転換システムを構築し、病原性の一要因であるウリ類炭そ病菌のメラニン合成系遺伝子をクロ-ニングした。その結果の概要は以下の通りである。1.ウリ類炭そ病菌のプロトプラスト系を確立し、高分子DNAの分離、および形質転換のコンピテントセルとしての利用を可能とした。2.ウリ類炭そ病菌のベノミル耐性菌を分離し、ベノミル耐性をもたらすβーtubulin遺伝子をpUC19にクロ-ニングし、pCTUB29とした。このことより、形質転換のマ-カ-としてこのβーtubulin遺伝子の利用が可能となった。3.形質転換に利用できるコスミドベクタ-を構築するために、pCTUB29にコスミドのパッケイジングに必要なcos部位を挿入し、クロ-ニング部位としてBamHIリンカ-を付与し、コスミドベクタ-pKVβを得た。4.ウリ類炭そ病菌のゲノムDNAライブラリ-を作製するためにゲノムDNAをSau3Aで切断後、20〜30KbのDNAを分離し、pKVβに挿入、大腸菌DH5αに感染させ、ゲノムDNAライブラリ-を作製した。5.ウリ類炭そ病菌のメラニン合成系遺伝子をクロ-ニングするためにアルビノ変異株をゲノムDNAライブラリ-による形質転換し、メラニン合成復帰形質転換株を得た。得られた形質転換株の一つよりメラニン合成復帰をもたらしたコスミドを回収し、pAC7とした。このコスミドはアルビノ株を高頻度で形質転換し、アルビノ株の欠損遺伝子に対応する遺伝子がクロ-ニングされた。すなわち、ウリ類炭そ病菌の病原性遺伝子の一つがクロ-ニングされた。6.以上の結果より、さらに現在保有している各種の病原性欠損株の形質転換によりメラニン合成以外の病原性遺伝子のクロ-ニングも可能となった。
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