サクラ天狗巣病菌(Taphrina wiesneri)、モモ縮葉病菌(Taphrina deformans)、スモモふくろみ病菌(Taphrina pruni)などの植物病原糸状菌による増生病の腫瘍形成因子としてオリ-ブこぶ細菌(Pseudomonas savastanoi)、根頭ガン腫病細菌(Agrobacterium tumefaciens)等と同様、本菌の生産する高濃度のIAA並びにサイトカイニンにより宿主植物細胞のホルモンバランスが崩れ細胞の異常増殖が引き起こされるためであると考えられる。本実験では、病原性因子のひとつと考えられるTwiesneriのIAA合成経路を明らかにし、その関連酵素の精製純化を行うと同時に、IAA合成の是御機構を調べた。更に、病原性に関する遺伝子解析を目的として、Iaa-変異株を選択し、パルスフィ-ルド電気泳動解析を行った。 1.オ-キシン合成経路とそのIAA合成制御 T.wiesneriのIAA合成にはトリプトファン(Trp)、インド-ルピルビン酸(IPA)、インド-ルアセトアルデヒド(IAAI)、インド-ル酢酸(IAA)と、インド-ルアセトニトリル(IAN)、IAAの二つの経路が存在する。TrpをIPAに転換する酵素、Trpトランザミネ-ス(TATase)は、基質による誘導を受けないが、IANをIAAに転換する酵素IANニトリレ-スは基質による誘導を受けることが判明した。また、クロフィブリン酸耐性Iaa-変異株では、IAA1からIAAが合成されず、インド-ルエタノ-ル(IEOH)が蓄積することから、IAA合成の制御はIAAIの酸化又は還元反応によって行われているものと推察された。 2.TATaseの純化・精製 TATaseの純化・精製を、硫安塩析、ゲル濾過クロマトグラフィ-、DEAEイオン交換クロマトグラフィ-、アフィニティ-クロマトグラフィ-を用いて実施したところ、少なくとも3つのアイソザイムが存在することが明らかとなった。 3.Iaa-変異体の選抜 抗オ-キシン剤、クロフィブリン酸(CFA)耐性株からIaa-変異株を選抜し、そのインド-ル生産能を調べたところ、IAAの代わりにIEOHが蓄積していた。即ち、IAAI oxidaseをコ-ドする遺伝子に変異が起きたものと推察された。またパルスフィ-ルド電気泳動法により、染色体DNAを分画したところ、染色体DNAIII(仮称)が二つに分断されていた。
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