自然の仕組みを生かした農法を開発するための、水田生物群集の構造と機能の解明

1989 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 63560047
• 研究機関: 広島大学
• 研究代表者: 高橋 史樹 広島大学, 総合科学部, 教授 (00026436)
• 研究分担者: 中越 信和 広島大学, 総合科学部, 助手 (50188918)
• キーワード: 自然農法 / 集約的慣行農法 / 水田 / 生物群集の構造と機能 / 栽培理論 / トビイロウンカ / ウンカシヘンチュウ / ウンカ類

研究概要

平成元年度も前年度と同じく、広島県内数か所を主にして、自然農法・有機農法の農家水田と、慣行の集約的農法の農家水田とにおいて、ウンカ類を中心においた生物群集の比較調査を継続した。
生物群集の構造は、前年度に得られない結果と同様に、各々の農法水田において顕著に異なっており、その差は長年にわたり自然農法や有機農法を継続した場合に一層強く現れた。その原因を追及したところ、生物群集の諸機能に次のような違いのあることが分かった。
ウンカ類の数ある天敵の中で、ウンカシヘンチュウ固体群が、群集構造の違いを示す決定要因として働いていることを前年度に示したが、本年度の調査結果からも同様の結論を示すことができた。すなわち、定住性の強いことの線虫と移住性ウンカ類との間の捕食者-被食者のバランスが、大きな攪乱作用で一度崩壊すると、その水田への再移入が困難となり、線虫の密度を回復させるのに長年月を要する。また、移住性ウンカ類の生息できない状況が一年でもあると、ウンカの発生しやすい水田になってしまう。ウンカ類の増殖の度合いは、ウンカの餌資源であり生活場所でもあるイネ固体群の成育状況によっても影響を受ける。とりわけ両農法でのイネの株当たり茎数や葉色に顕著な差異が認められた。慣行の集約的農法は現行の栽培理論に従っており、そこでのイネの成育型は最高茎数が多く、葉色の濃い、初期生育偏重気味のものであった。このような稲作環境では、移住性ウンカ類の飛来後の第1世代における短翅型雌率(増殖型の出現率)をより高くし、増殖しやすくしていることが多かった。それに比べると、自然農法の場合はイネの養分供給を自然界からにのみに存在しているので、イネの初期生育は緩慢であり、無駄な茎数の増加がなく、葉色もあまり濃くならずに推移し、短翅型雌の出現頻度は慣行農法水田に比べ大きく抑制された。

研究成果

• [文献書誌] 高橋史樹: "害虫制御の固体群動態論的考察-実験室から野外へ、生物群集の単純な構造から複雑な構造へ-" (財)四明会編 農学の未来像を求めて. 5. 134-149 (1989)
• [文献書誌] T.Tateishi,T.Horikoshi,F.Takahashi,&H.Tsubota: "Microbial biomass and microflora in the soil at burned and undurned Japanese red pine forests." 日本微生物生態学会報. 4. 77-87 (1989)
• [文献書誌] T.Tateishi,T.Horikoshi,H.Tsubota,&F.Takahashi: "Application of the chloroform fumigation-incubation method to the estimation of soil microbial biomass in burned and unburned Japanese red pine forests." FEMS Microbiology Ecology. 62. 163-172 (1989)
• [文献書誌] 頭山昌郁、中越信和、高橋史樹: "林野火災跡地の植生回復と地表生息性節足動物群集の動態" 日本生態学会誌. 39. 107-119 (1989)
• [文献書誌] 高橋史樹: "土地開発における裸地面への表土復元" 環境科学会誌. 2. 209-212 (1989)
• [文献書誌] 日鷹一雅: "自然農法稲作における生物の構造および機能の比較研究" 広島大学総合科学部紀用VI. 15. 85-88 (1989)
• [文献書誌] 高橋史樹: "対立的防除から調和的防除へ、その可能性を探る" 農山漁村文化協会, 185 (1989)
• [文献書誌] 日鷹一雅: "自然、有機農法と害虫:粗放的でも集約的でもない農法を求めて" 冬樹社, 215 (1990)