水田害虫として重要なウンカ類を中心に置いた生物群集を、東広島市を中心に、広島県内数箇所の自然・有機農法の農家水田と、その近隣の慣行的な集約的農法の一般農家水田において、比較調査した。 トビイロウンカの飛来は両者の水田に同程度にみられ、慣行的な水田では殺虫剤散布が行なわれたにもかかわらず密度が増加し、被害(坪枯れ)が生じたが、10年以上続けられた自然農法水田では、密度の増加がみられず、トビイロウンカの被害がなかった。 生物群集の構造は、転作や構造改善事業などで水田が大きく攪乱された後の経過年数によって異なっていた。多くの天敵の中でウンカ類を低密度に保つ効果の大きいものは、寄生性線虫のウンカシヘンチュウであることが明らかとなった。しかし、定住性の強いこの線虫と移住性ウンカ類との間の捕食者-被食者のバランスが、大きな攪乱作用で一度崩壊すると、その水田へ再移入が困難で、線虫の密度が回復するのに長年月を要する。また、移住性ウンカ類の生息できない状況が一年でもあると、ウンカが発生しやすくなることが明らかにされた。 ウンカ類の増殖の度合いは、ウンカの餌資源であり生活場所でもあるイネ個体の群生育状況によっても影響を受ける。慣行の集約的農法は現行の栽培理論に従っており、そこでのイネの生育型は最高茎数が多く、葉色の濃い、初期生育偏重気味のものであった。このような稲作環境では、移住性ウンカ類の飛来後の第1世代における短翅型雌率(増殖型の出現率)をより高くし、増殖しやすくしている。それに比べると、自然農法の場合はイネの養分供給を自然界からにのみに依存しているので、イネの初期生育は緩慢で、無駄な茎数の増加がなく、葉色もあまり濃くならずに推移し、短翅型雌の出現頻度は慣行農法水田に比べ大きく抑制された。
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