研究概要 |
本研究は,麦類褐色雪腐病菌Pythium iwayamaiとP.paddicumの畑および水田土壌中における偏在性の発現機構を,両菌の各土壌中における生存能力の差に求め,3か年にわたり行ったものである。 その結果,畑生息性,水田生息性を問わず,畑よりも水田土壌中でより長く生在するということが判明した。とくに,畑生息性P.iwayamaiは畑土壌中で比較的速く検出されなくなるという,期待に反する結果を得た。 以上のように,生存能力の差によって偏在性を説明することは困難であるが,生存能力に関する実験は,さらに長期にわたって行われるべきものであると考えられ,現在も実験を継続している。 しかしながら,本研究において畑生息性P.iwayamai,水田生息性P.paddicumとも畑土壌で生存できるが,水田生息性P.paddicumの方が畑生息性P.iwayamaiに比べて畑でより長く生存できると考えられる結果を得た。この結果は,P.paddicumの畑土壌中における競争的腐生能力がP.iwayamaiに比べて高い,という実験結果と一致した。 上述の競争的腐生能力に関する実験を,接種源濃度が明確になる卵胞子を用いて行ったところ,一定の結果が得られなかった。これは,両菌卵胞子の土壌中における発芽率の低さによると考えられたので,発芽条件の検討を行った。その結果,10%V8ジュ-ス液体培地で24週間培養するのがよく,そこで得た卵胞子浮遊液を4℃,10日間静置すると発芽が若干誘起されることが分った。 このような発芽誘起処理を行って両菌卵胞子を畑土壌に導入し,競争的腐生能力を比較・検討することは今後の課題であるが,ここで得た一連の実験結果は,麦類褐色雪腐病菌P.iwayamaiとP.paddicumの畑,水田土壌中における偏在性が,競争的腐生能力の差に基づくことを強く示唆している。
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