本年度は絹織物の耐摩耗性能を把握するにあたり、摩耗実験方法について、実用による摩耗損傷形態に近似した結果を得るための実験条件を検討した上で研究を行った。実験的磨耗損傷形態は走査型電子顕微鏡による観察を行った結果、繊維表面を付着物が覆い、実用による摩耗の特徴である副生繊維の発生はほとんどみられなかった。実用による絹織物の摩耗損傷経過は副生繊維の発生による光沢の低下をもたらし、繊維の細分化から強度低下し切断に至ることが予測されるが、実験的摩耗は、繊維の摩擦による粉末化、あるいは溶融経過をとっていると考えられる。付着物の発生原因を摩耗熱による線維の溶融である可能性について確認するために、示温法および熱電対による布の表面温度測定を行った。 その結果、摩耗部周辺の測定では繊維溶融にいたる発熱は認められず、繊維レベルの測定が必要であると考えられた。絹織物の耐摩耗性能については綿織物を対照区とし、ユニバーサル型摩耗試験機により測定を行った。これまでにも絹織物の摩耗強度については研究が行われているが、複合的要因によるとされる摩耗強度と織物特性との関係は明確にされていなかった。今回は構造的因子のより近似したものをとりあげ、力学的特性との関係を中心に考察した。その結果、標準状態における綿と絹織物では構造が同一の場合には絹織物の方が耐摩耗性に優れているこが明らかとなった。さらに、摩耗回数と引張特性との相関が認められた。 これは、ユニバーサル試験方法において試料を空気圧により半円球に伸長することに起因していると考えられる。また、空気圧を一定としているところから、試料の引張特性により、摩擦子との接触面積の差異が生じることも考えられ、この点については画像解析システムを用いて検討中である。
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