イネ科植物の根が土壌からの鉄獲得のため自律的に合成・分泌する一群の鉄(III)輸送キレート剤〜ムギネ酸系phytosiderophoreの中から、ムギネ酸(MA)、2'-デオキシムギネ酸(DMA)および3-epi-ヒドロキシムギネ酸(epi-HMA)の3者を取り上げ、これらの物質のphytosiderphoreとしての性能の判定評価に寄与する実験データの収集を行った。 最初に、Dowex 50Wカラムによるオオムギ根分泌物両性画分からのMA類単離法の簡略化を試み、塩酸濃度勾配(0.5〜4.0N)溶出による実質上1段階の分画操作により、迅速かつ高収率でMA類(DMAを除く)を結晶化する手法を確立した。 続いて、上記3種のMA類につき水酸化鉄(III)ゲル(Fe^<III>ゲル)からの鉄溶出効率を調べたところ、その効率はDMA>MA>epi-HMAであった。そこでさらに検討を進めた結果、鉄溶出効率における上記の差異はFe^<III>ゲルによる各MA類の吸着量の差に基づくもので、その吸着量の差は反応系におけるFe^<III>ゲル濃度と反応温度および反応時間の増加に伴い拡大することが判明した。一方、土壌中の鉄の反応性がきわめて低く鉄欠乏の発生が作物栽培上の主要な問題となる高pHの石灰質土壌(米国ユタ州産、pH8.1)につき、以上と同様にして鉄溶出効率の測定を行ったところ、供試した3種のMA類の間に大差は見られず、いずれもほぼ同等の溶出効率を示した。これは石灰質土壌のMA類吸着力が非常に弱いためと推定されるが、詳細は目下検討中である。 以上と別に、3種のMA.類につき金属錯体生成て定数のpH滴定法による測定を試み、Ca(II)、Mn(II)、Zn(II)、Fe(II)錯体の生成定数を決定した。しかし、Fe(III)、Cu(II)およびAl(III)錯体については測定がやや困難で未だ結論を得るに至っていない。近く、イネ幼植物の根に帯する各MA類の鉄(III)輸送活性の測定に着手する予定である。 ムギネ酸/2'-デオキシムギネ酸/3-epi-ヒドロキシムギネ酸/石灰質土壌/phytosiderophore/鉄(III)溶出効率/金属錯体生成定数/水酸化鉄(III)ゲル
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