本研究の目的は、土壌環境中で通常見出される酸化物、一次鉱物、粘土鉱物と酵素を供試し、これらが腐植物質の生成に如何なる役割を果たしているかを総合的に解析することである。かかる目的を達成するために、まず酸化物、一次鉱物および粘土鉱物と酵素によって影響される腐植様物質の生成を室内モデル実験により詳細に調べ、ついで生成した腐植様物質の各種の性状を光学的および物理化学的手段を駆使して調べ、さらに人口腐植様物質と自然土壌中に存在する腐植様物質の性状を比較した。得られた結果は以下のように要約される。 1.酸化物として、マンガン、鉄、アルミニウムおよびケイ素の酸化物を合成し、これらによる腐植様物質の生成状況を研究したところ、マンガン酸化物の触媒効果は、他の酸化物と比べてはるかに強力であることを本年度においても確認した。 2.各種の粘土鉱物および一次鉱物を供試して、これらの触媒効果を上記と同様に研究した。その結果、供試粘土鉱物間ではモンモリロナイト、一次鉱物間ではテフロライトの効果が顕著であることを確認した。 3.腐植様物質の生成に及ぼす触媒効果は、基質特異性により著しく変化することを確認した。例えば、ラッカ-ゼはP-位に水酸基を有するフェノ-ル性物質の腐植様物質への変化を顕著に促進した。 4.腐植様物質の生成にはラジカル反応が含まれていることを確認するとともに、腐植化度の高い物質が形成される場合には特有なX線反射(002面)を示す積層構造が形成されることを確認した。 5.前記の触媒によってその生成が促進された腐植様物質の性状を詳細に調べた。元素組成、光学的性質および物理化学的諸性質はいずれも自然土壌から分離・精製した腐植物質と類似しており、それらの触媒は土壌中における腐植物質の生成において重要な役割を果たしていた。
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