癌の多剤耐性に関係しているMDR1遺伝子は、ヒトの肝臓、腎臓、大腸、副腎などで発現している。MDR1遺伝子のコードするP-糖蛋白質は、本来食物中の有害物などを体外に排出していると考えられる。副腎においては、発現様式が他の器官と異なるため、それ以外の機能が考えられた。P-糖蛋白質の副腎における本来の機能を解明する事を目的に、本年は次の事を行った。 1.ヒト正常副腎RNAを用いてcDNAライブラリーを作成し、4.2kbのMDR1cDNAを単離した。全塩基配列を決定した結果、副腎MDR1cDNAは、すでに多剤耐性細胞から単離していたcDNAと比べ9塩基の置換を持っており、185番目と893番目のアミノ酸が異なっていた。 2.各器官及び培養細胞のRNAとDNAを検討した結果、185番目のアミノ酸置換は、コルヒチン選別多剤耐性細胞でのみ見いだされ、893番目のアミノ酸は、ヒトゲノム中で多型性を示すことが示唆された。 3.2つのアミノ酸置換を種々組換えた4種のcDNAを発現ベクターにつなぎ、マウス培養細胞に導入した。いずれのcDNAも培養細胞を、コルヒチン、ビンブラスチン、アドリアマイシンに対して同時に耐性にした。さらに185番目のアミノ酸の違いが、これらの薬剤に対する相対耐性度を大きく変化させることが明らかになった。 4.ヒトMDR1遺伝子を酵母内で誘導発現する系を確立した。発現させたPー糖蛋白質が、酵母細胞膜に正しい方向に挿入されていることが抗体によって確認できた。Pー糖蛋白質は、酵母細胞膜の数パーセントに達し、試験管内で薬剤結合活性を示した。 以上の系を用い、副腎におけるステロイドホルモン輸送などへのPー糖蛋白質の関与などを、さらに解明したい。
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